対談

フルスタックエンジニアに聞く、テクニカルクリエイターになる一つの答え

2016-2-4

「デザイン×テクノロジー」のスキルを持つ、「テクニカルクリエイター」とは何か?

 
2016年の“職種名バズワード”になる可能性を秘めた言葉を見て、ここ数年で注目を浴びた職種を振り返ってみた。「CTO」、「グロースハッカー」、「技術顧問」などいろいろあるが、最も「テクニカルクリエイター」に近いのは、「フルスタックエンジニア」だろう。
 
フロントエンドとサーバサイドの両軸を担えるスキルを持つ「フルスタックエンジニア」。デザイン以外の領域をカバーでき、1人で複数のタスクをこなす点については「テクニカルクリエイター」と同意義だ。
 
そこで、僕が知る限りでも数少ない「フルスタックエンジニア」である株式会社Arrvis(http://www.arrvis.com/)の代表取締役・伊豆丸祐恭くんに話を聞いてみることにした。
 
彼は新卒で入社したSIerを経て、僕と同じgloopsに転職。その後、フリーランスを経て起業を経験している人物。
 
そんな彼から見るテクニカルクリエイターへの印象や今、現場で必要とされているエンジニアとデザイナーのスキルについて。そして、どうすればテクニカルクリエイターを目指すことができるのか?などの疑問をぶつけてみた。
 
「デザイン×テクノロジー」をフルスタックエンジニアの目線から紐解く。

izumaru 伊豆丸 祐恭
1987年1月29日生まれ。埼玉県出身。2009年ソーバル株式会社入社。Web・オープン系エンジニアとして従事。2013年株式会社gloops入社。ヒットタイトル『欧州クラブチームサッカーBEST☆ELEVEN+』のチーフエンジニアを務める。同社退職後、フリーランスとして独立。2014年 株式会社ファンスパイア入社。執行役員CTOに就任。2015年 株式会社Arrvis設立。代表取締役に就任。
 
izumaru 聞き手:小島 芳樹
プロデューサー。Webやスマートフォンアプリによるサービスを開発・提供する会社で働いています。
Twitter:@yoshikikoji
 
 

伸びる市場にアンテナを張る男

 

今日はありがとう。まずは簡単に自己紹介してもらっていいですか?今まで何触ってきたとか。

SI時代はプログラマー。開発だとiOSとかAndroid。他にも.NET、PHP、Windows Server 。インフラはAWS(Amazon Web Services)も触れるし、google cloud platformもやったね。最近はUnityとUnreal Engineかな。今はゲームが中心ですね。

いろいろやってるよね。僕もちょっとプロジェクトを手伝ってもらったことが会って、そのときはAndroidアプリを作ってもらったんです。

他にもオンライン学習サービスのAndroidアプリもやりました。ただ、僕としては難点だなと思っていることもあるんです。経験が「浅く広い」ということ。専門的に何年もやっている人にはちょっと敵わないな。ということもあります。

でも、iOSは長くやってるじゃない?

iPhone3GSくらいからやってるね。

だからUIに強いという印象を持ってた。昔からiOSをやってるから感覚が鋭い。Androidの時もすごく綺麗だったし。サーバサイドの経験だけだと、UIにまでフォーカスできなかったりするじゃない?

まぁ、今後伸びそうなところにアンテナを張ってるだけなんだけどね。当時もiOS来るって思ったし。それに新しいことに取り組むことに抵抗がなかったのよ。SI時代の経験から。プロジェクトが変わると、そもそも言語も変わるしね。当時はいろいろやったなぁ。Webもやったし、サーバサイドオンリーもやった。業務システムもFacebookアプリも作った。iOS、Androidもそこが初かな。

「広く浅い」には訳がある

 

さて、ここからは質問を。「モバイルアプリのサービスに必要なリソース」ってなんだと思う?どういう職種の人が必要か。

うーん。ゲーム以外の縛りにしようか。それだとエンジニアはまず必須。サーバサイドとiOS、Android。規模が大きければサーバサイドは複数名かな。Webも含めるとフロントエンドエンジニアとUIデザイナー。

UIデザイナーなしの案件とかあったりする?

UIデザイナーがいるって案件はほぼない。例えばすでにあるiOSを参考にしてAndroid作ったり。デザイナーはいるけど、ワイヤーフレームはこっちで作ってる。全部ワイヤー作って「これにビジュアル当てはめてください」ってデザイナーに渡す感じ。

パーツはデザイナーに作ってもらって、UIの設計は伊豆丸くんがやってるんだ。そういう意味ではデザインやってるね。これがリアルなモバイルアプリの開発現場になるのかな。

とはいえ僕にはデザインのスキルはないからね。ビジュアルを当てはめられない。

グラフィックデザインのところね。

そうそう。そこはデザイナーが欲しいといころ。そこまでできたら「テクニカルクリエイター」だね。でも、やっちゃったらダメじゃん?全部できたら誰もいらなくなっちゃうし。俺は「浅く広く」やりたいんだよね。全部持っちゃうとそこに集中しなくちゃいけないし。

俺が難点だと思いながらも、「浅く広い」を貫く理由は、結局市場が安定するということがないからなんですよ。例えば、「iOSが今後、30年仕事があります」という状況ならいいんだけど、そんなわけないでしょ?市場が変化するから、自分も変化し続ける必要がある。だから、いろいろできるのはいいんだけど、一人で全部持つのは嫌なんだよね。

フリーランスという道が鍵を握っている?

 

「モバイルならではの必要なスキル」ってなんだと思う?

エンジニアで言えば、iOS、Androidとかのプラットフォーム理解かな。

モバイルアプリからはUIデザインが必須になったよね。

そうね。UIって言葉が流行ったのスマホが普及してからだもんね。

デザイナーもそうだけど、実装するエンジニアにもすごく感性が求められる。例えばAndroidでマテリアルデザインの実装なんて本当にそう。しかも、すごいスピードで変化するし。そうしたスキルのキャッチアップってどうしてるの?

自分で作って試して覚える。これだけかな。うちの会社で言えば、「仕事を受注する」ということにつながるよね。

自分でチャンスを作るようにするってことだね。会社に属していると組織の文化によっては難しいかも。

技術を選べるようになったのは、フリーになってからかな。SI時代はお客さんから技術の指定があるので、それに従う。たまにお任せの時もあるけど会社が強い技術を選ぶから、自分が挑戦したいものとは違うよね。

確かに。フリーランスになるのは「テクニカルクリエイター」、「フルスタックエンジニア」になる一つの手段かもしれない!

ペライチ(https://peraichi.com/)の小川裕之さんもフリーランス時代があって、DTPとかWebデザイン専門からディレクションや開発もやるようになったって。フリーランスになると追い込まれるし、技術も選べるから自分を磨くには本当にいいかも。

フリーの場合って、iOSだけとかAndroidだけとかの仕事ってなくて。大体、「アプリ作ってください」って依頼を受けるからさ。当然、インフラも用意しなくちゃいけないし。
結局、俺がフルスタックになったのは、受注金額にも関連しているんだよね。例えば、お客さんは普通なら2人のエンジニアに依頼する仕事を1人で済めば嬉しいし、こっちも通常の単価よりも高く受注できればそれに越したことはない。お互いのメリットが重なることを考えると、1人でできる幅を広げるのは大事だって思ったのよ。

エンジニアからデザイナーに歩み寄る方法

 

「テクニカルクリエイター」って、エンジニアとデザイナーどっちのポジションから目指した方がいいと思う?

開発から入った方がいいと思う。結局デザインを埋め込むって開発側だから。根幹を理解してないと難しくない?例えば、iOS。作り方のお作法を理解してないとデザインってできないよね。

確かにデザイナーがエンジニアに「こんな画面作りたいけど、どうすればいいと思う?」って聞いてるのよく見るね。レイヤーの構造なんて、ガイドラインには載ってないから聞かないと分からない感じ。

iOSの仕事でデザインが挙がってくる時って、大抵エンジニア側がデザインを見て、iOS的にこれはダメだとか、こういった実装は難しいというのをデザイナーに戻すのよ。それを見て、再度デザインを考えるケースが多い。でも、エンジニアから入ってたらこのやり取りってないじゃない?

デザイナーがその視点を持っていれば仕事がスムーズになるよね。僕もWebデザインから入って、フロントエンドやってバックエンドもやったんだけど、今思えばバックエンドからやってれば良かったなって思う。

まぁ、エンジニアもデザインの基礎は学んだ方がいいけどね。配色とか。逆に質問だけど、エンジニアがデザインを学びたいと思ったら何をすればいいの?

世の中でいいとされているデザインを模写することかな。本当に写経みたいなもの。僕がスクールに通ってた時もHTMLとCSSを覚えたら、「このサイトをまるっとそのまま作ってください」みたいな時間があったの。上手くなる覚えるためには、「いいものをマネする」ことが学びへの第一歩かなと思う。

悪いものは分かるけど、いいデザインがどれか分からない。そこはどうすればいいの?

いいデザインが集まってるサイトがあるから、そこを見てみるといいかも。アプリに関しては、海外の方が進んでいるから海外のアプリをチェックしてみるとか。後は、とにかくUIをよく見るってことかな。目を近づけて凝視するじゃないけど。

あーよく見るのはやった。参考にしたりもしてたね。

デザインに興味がある人はやっぱりよく見てるよね。僕がエンジニアに画面を作ってもらって、大きな指摘する時って、他のアプリとは圧倒的に違う実装になってる時なんだよね。標準になってない違和感がすごいというか。

だから、エンジニアの人がデザインを吸収したいのであれば、「非エンジニアのデザイン入門」みたいな記事を読むよりもとにかく、画面を見ることをお勧めしますね。

フルスタックエンジニア=テクニカルクリエイター!?

 

「テクニカルクリエイター」ってどんなシーンで必要だと思う?

エンジニアとデザイナーが対立するシーンってやっぱりあるのよ。それってエンジニアがデザイン分かってないし、デザイナーが開発分かってないから起こるんだと思う。そこをまとめるのが、「テクニカルクリエイター」だと思ってる。

両方を理解しているから、チームをまとめられるということだよね。いい議論が生まれるというか。でも、「テクニカルクリエイター」って結局何だろうね。まとめ役だとある意味、プロダクトマネジャーみたいなところになるし。

あー確かにね。名前はあるけど、仕事はどうなるんだろう。フロントエンド、サーバサイドの実装、インフラの理解があればフルスタックだけど、ここにデザイン理解が入ってればいいのかな。

そもそも実際に、「テクニカルクリエイター」って見たことある?僕が知ってる人で、ビジュアルも作れてXcodeでバリバリコーディングまでしちゃう人がいて。彼は元フラッシャーなんですよ。その後、WebデザイナーやiOSの開発をやってる方なの。

Flashをやっていた人って、Web開発か映像にシフトしたと思うんだけど、中にはiOS、Android開発のキャリアを歩んだ人もいると思う。ここが「テクニカルクリエイター」の素養を一番秘めてる気がするなぁ。

「テクニカルクリエイター」は見たことないね。言ってしまえば、フルスタックですら中々いないもん。多分、「テクニカルクリエイター」ってフルスタックの上位だと思うから。

うーん。デザインパーツは作れないけど、画面の設計はできるフルスタックエンジニアはいるよね。実際はすごい作りこまれたアイコンとかを使ったデザインってモバイルでは減ってきてるから、すでにフルスタックな時点で「テクニカルクリエイター」な気もしてきた。

じゃあ俺は「テクニカルクリエイター」でいいの?

ひょっとするとそうなのかもね。今後のデザインの進み方とか考えてみると、そうなっていく可能性はあると思う。デザイナーってそもそも表面上のデザインをする人じゃなくて、設計ができる人ってことだし。

テクニカルクリエイターが持つ、2つの働き方

 

改めて考えると「テクニカルクリエイター」って、どこにニーズがあるんだろうね?大企業とスタートアップみたいな軸で考えると。

両方かな。大企業だとまとめ役だし、スタートアップだと全部やる人みたいな。職種名は同じでも働き方は2種類になるんじゃない?企業のステージによって職務が変わる。

でも、大企業でまとめ役だけやってたら、本来の強みが弱まりそうな気もするよね。コード書く時間も減っちゃうし。これって望ましいことなのかな?

難しいね。でも、言葉も生まれたばっかりだし、これから定義されていくんだと思う。開発ができて、デザインもできるって、市場価値が高いのは間違いない。スタートアップと大企業で働き方は変わると思うけど、どっちに自分の身を置くことが、「テクニカルクリエイター」になった後で、素晴らしいのかを考える必要はあるよね。なれればの話はあるけど。

答えは出ないが、理屈は分かった

 

伊豆丸くんと焼肉を食べながら「テクニカルクリエイター」について話したわけだが、結局定義付けはできなかった。だが、分かったことがある。
 
それは、フリーランスに転じるまではいかなくても、自分でとにかく経験を積む大切さだ
「テクニカルクリエイター」を目指す人がいるのであれば、開発・デザインについてとにかく作って学んでみること。これが最大の近道になるのかもしれない。

文・撮影/川野優希(ワグナー)@ougaan21

書き手:小島 芳樹
Webやスマートフォンアプリによるサービスを開発・提供する会社で働いています。
Twitter: @yoshikikoji